香り

スイーツを買おうと、夜11:00くらいのコンビニへ行った。ゆく道筋には、時間帯もあってほとんど人はおらず、少し怖いくらいだった。いつもなら賑わっている小学生の学習塾や広い公園も、人影ひとつなく、何か黒い影がサッと出てくることが頭の中で想像されると、少し自転車をこぐスピードが速くなってしまうような感じである。

 

ところが、コンビニへ着いてみると、まず停めてある自転車の数に驚いた。多いこと。一体どんな賑わいだろうかと店内へ入ってみると、大したものではなかった。さしづめ近所のアパートの住民が停め置いていったものだろうか。ともあれ、賑わいこそないもののコンビニの中にはちら、ほら、と客があり、中には複数人のまとまりもあって話し声が止むことはなかった。

 

僕がスイーツコーナーを眺めていた時、男女のアベックが店内へ入ってきてまっすぐスイーツコーナーへやってきた。僕は、すこし場所を譲ったが、スイーツコーナーからは離れず、つまりそこには僕とそのアベックがいる構図となった。アベックが何を話していたかなどは覚えていないが、女の方が僕に近かったのは確かだ。すると、ふと僕の鼻が香りに包まれた。見事なまでの、美しい、風呂上がりの香りである。女の側の、風呂上がりの香りである。

 

その女の髪は肩下までの長さがあり、結んでおらず、毛先は多少荒れ、艶やかなものではなかった。加えて、まばらに茶色に染めてあり、多少のやんちゃさが垣間見える様であった。

 

そんな女の見てくれを凌駕し、その風呂上がりの香りが僕の鼻を包み込んだ。その瞬間に、頭の中に、女の日常的部分を想起した。連れの男との日常が、深遠なる日常が、僕の想像によって思い起こされた。これに僕は驚いた。驚きのあまり、僕はどうしたらいいかわからなくなり、逃げ出してしまった。スイーツを取らず、別のコーナーへ足を向けてしまったのだ。

 

香りの脅威である。