群の表現

 

1.表現とはなにか
   群Gを考えよう。我々は線形代数のことはよく知っているから、群を調べるのにその性質が使えるとありがたい。そこで、まず線型空間Vを考えて、
Aut(V)={M ; V→V 全単射}
つまりVからVへの全単射全体をとる。これは、「写像の合成」という演算によって群構造を持っていることがわかる。


【証明】Aut(V)に対し, 結合則が成り立つことおよび単位元(単位行列)の存在は自明. 今, 全単射だから必ず逆写像を作れて, それはつまり逆元の存在を意味する.(証明終わり)

 

   そこで、GからAut(V)への準同型写像M、つまり
任意のg,h in Gに対してM(gh)=M(g)M(h)
を満たす写像を考える。

 

【定義】このように構成された(V,M)をGの表現という.

 

イメージは、図1にある。

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2.線型空間と、その部分空間
   群の表現論に立ち入る前に、線型空間(ベクトル空間ともいう)の話をする。Vを(K上の)ベクトル空間とし、その基底{Bi}を考える。あるM in Aut(V)はこの基底によって行列の形にかける。これを、行列の(基底{Bi}による)表現という。

さて、Vの部分集合Wを考えよう。これがさらに、線型空間である時、WをVの部分空間であるという。

 

【定義】Vの部分集合Wについて
任意のv,u in Wが, 任意のα,β in Kについてαv + βu in Wを満たす時, WをVの部分空間という.

 

ちなみに、{0}やVはVの自明な部分空間である。

 

   さて、部分空間は常に0元を持っているが、逆に2つの部分空間W1,W2の共通の要素が0元のみである時、新たな部分空間

W1⊕W2={v+u | v in W1, u in W2}

を考えることができる。これをW1とW2の直和という。これが部分空間なることは簡単に証明できる。

 

   線型空間Vが部分空間たちWiの直和になっている場合を考えよう。各Wiは線型空間だから、そこで基底が取れる。その基底たちをまとめてVで見ても一次独立だから、それはVの基底となる。この基底でAut(V)の元を表現するとどうなるだろうか。ぜひ自分でやってみてほしいが、Wiの基底は(当たり前だが)Wiで閉じているから、ブロック対角の形になるのだ。

 

3.既約表現、可約表現
   ここまできてようやく、表現が可約であることの説明ができる。

 

【定義】群Gとその表現(V, M)について, Vのある部分空間Wが
任意のw in Wが, 任意のg in Gに対してM(g)w in Wを満たすとき,
WをM不変空間という.

 

イメージを図2に付す。

 

【定義】群Gの表現(V,M)について, VのM不変部分空間がVか{0}でしかないとき, 表現(V,M)を既約表現という.
そうでないとき, 可約表現という.
さらに, VがM不変部分空間の直和でかけるとき, 完全可約という.

 

と言われとも何のことかあまり分からないので、もう少し説明する。表現が既約か可約かは、M(g)の形に如実に現れるのだ。

 

   前にも説明した通り、M(g)はVの基底を何かとることで行列の形に表すことができる。表現が可約であるとしよう。つまり、Vは非自明なM不変部分空間をもっている。さらに、

 

【マシュケの定理】有限群の複素数体上有限次元表現は、常に完全可約.

 

という超強力な定理があるので、普通に考えるなら可約な表現はすぐさま完全可約である。つまり、VがM不変空間の直和として表されることとなり、これは任意のM(g)がブロック対角になることを意味する。

 

   直感的な言い方でまとめると、群Gの表現(V,M)が(完全)可約であるとは、行列M(g)がブロック対角に分解できることである。