熱が出た。動けずに、寝転がっている。ポカリスウェットは買ってきたから死ぬことはあるまい。だけどやっぱり、寂しい。外は雷雨だ。

 

横になったり体をもたげたりしながら、夏目漱石の「三四郎」を読んだ。八話。小川三四郎と里見美禰子との間の、感情の妙があぶり出される。特に美禰子の側が心を寄せようとする。三四郎の方はもとより美禰子へ好意を寄せていたのだが、両者不器用故になんともうまくいかぬ様が描かれる。その、なんともうまくいかなさが、実に美しく感じた。

 

男女の妙だ。言葉のやり取りには、正解の範囲と不正解の範囲と、どちらとも言えぬ範囲がある。僕なんかはいつも、どちらとも言えぬ範囲にばかり身を置いてしまう。特に女の側の言葉に対する男の言葉にはいくつかの大事な決まり事があるらしく、よっぽど鈍感極まる男でない限りその処方箋は知っているものだろうが、知っていたとて当場で実行できるとは限らない。というか大抵の男はできない。往々にして後から、あの時ああ言っておけばなあ、と後悔したりするものだ。