はじめての記憶

僕が生まれたのは片田舎の、といってもそんな山の中という感じでもなく、ある程度の建物群はあるしちょっと歩けばそれなりに車が流れる大通りのある、そんな街に生まれた。生まれてすぐに、父方の祖父母と一緒の家、すなわち二世帯住宅で暮らし始めた。

 

本当に幼い頃の記憶はあまりないが、1つあるとすれば妹が生まれるときである。普段は二階で過ごしていたが、その時ばかりは祖父母の住む一階で過ごさなければならなかった。見なれぬ食卓を、祖父母、父親、それから僕で囲んでいた光景をまざまざと思い出すことができる。母親は妹のお産のために産婦人科の病院へ入院していたのである。そのただならぬ雰囲気というか、いつもと違う感じを、いつもと違う食卓という光景によってはっきりと記憶させられた。それはちょうど2歳くらいの時であり、僕の中で最も古い記憶のように思う。

 

3歳くらいの記憶としては、幼稚園のもので二つある。一つは、友達におもちゃを取られて怒りの感情を持ったこと。それは、僕が覚えている初めての怒りである。もう一つは、みんなの前で父親と一緒にどんぐりころころを踊りながら歌ったことである。踊りといっても向き合って両手をつなぎ、「どんぐりころころ」と歌いながらリズムに合わせてその繋いだ手を揺らしていただけだが。でも、それが終わった後に皆から拍手を貰い、なんだかとても嬉しかった思い出がある。これが、僕が覚えている初めての承認である。