Coulombの法則の時間的拡張について
古典電磁気学の基礎方程式系であるMaxwell方程式を構成するにあたって、Coulombの法則から得られる(磁気の渦なしも含めた)Gaussの法則は、その過程で大胆な時間的拡張を行なっています。その正当性をどう説明したらよいでしょうか。
本来Coulombの法則は(遠隔作用的に捉えると)、二つの電荷(e,e')の間に働く力の大きさFがそれらの電荷の積に比例し距離Rの二乗に反比例するというものです。
F=kee'/R^2(kは比例定数)
このことは時間的に定常的な状態で見出された法則で、したがってそれを近接作用的に捉えたGaussの法則
divE(x)=ρ(x)
も時間的に定常的な状態でしか考えられません。しかしいくつかの書物ではそれを時間的に拡張解釈して
divE(x,t)=ρ(x,t)
が成り立つと、暗にしてしまっていることがあります。この拡張前と後では根本的に違うことを言っているということは当然で、この拡張には気持ち悪さを禁じ得ません。
同様に磁気の渦なしの法則
divB(x)=0
も本来は時間的に定常的な状態での式であり
divB(x,t)=0
とは根本的に違います。
この時間的拡張がMaxwell方程式の他の式から正当化されることを説明します。
まず、Gaussの法則
divE(x,t)=ρ(x,t)
について。Maxwell-Ampèleの法則
1/μ rotB(x,t) = i(x,t) + ε∂t E(x,t)
にdivを施して電荷保存則
divi(x,t)+∂tρ(x,t) = 0
を加味すれば
ε∂t divE(x,t) = ∂t ρ(x,t)
∂t (divE(x,t)-ρ(x,t)) = 0
を得るので、ある時刻で
divE(x)-ρ(x) = 0
が成り立っていれば、どんな時刻でも成り立つことが分かります。したがって、この時間的拡張は正当だと言えましょう。
次に、磁気の渦なし
divB(x,t)=0
について。Faradayの電磁誘導の法則
rotE(x,t)+∂tB(x,t)=0
の発散をとれば
∂t divB(x,t)=0
を得るので、これも、Coulomの法則の磁気バージョンから得られる結果
divB(x)=0
さえあればそれを時間的に拡張してもよいことが分かります。
以上のことから、Coulombの法則の時間的拡張という行為が正当化されました。ただ、ここでは電荷保存則を前提としています。Maxwell方程式により電荷保存則を導けますが、電荷保存則はより根本的な部分から導かれていて、Maxwell方程式はそれに包含されていると思いたいです。したがって、私としてはここで述べた議論の方がしっくりくるのです。